HOME > ブログ > 税務コラム > 法人成り16のメリットと6のデメリットから考える会社設立のすすめ

ブログ

< 税理士に相談する前に知っておきたい会社設立後の7つの手続き  |  一覧へ戻る  |  経営者なら知っておきたい決算書で見るべき10のポイント >

法人成り16のメリットと6のデメリットから考える会社設立のすすめ

個人事業主の方々で、「法人成り」について迷われている方は多いのではないでしょうか?

「いくらから法人にしたらお得なの?」

「会社にしようと思うんだけど、今とどう変わるの?」

などなど、当事務でもお客様からご相談されることが多々あります。
そこで、今回は、個人事業から法人成りした時のメリットとデメリット、考慮すべきポイントについてお話していこうと思います。



  • 法人成りの16のメリット
まずは個人事業から法人成りした場合に得られるメリットについて、税務面とそれ以外についてご紹介します。


税務面での9つのメリット

① 給与所得控除が受けられる
個人事業の場合、利益から経費を引いた残りが所得として課税の対象になります。
この時に、青色申告の申請をしていれば、「青色申告特別控除」として、所得額から最高65万円を控除することができました。

しかし、法人成りして会社から役員報酬として、給与を貰うようになれば「給与所得控除」を受けることができます。
「給与所得控除」は最低65万円から上限の220万円まで、給与が増えればそれだけ控除額も増えていきます。

年収毎の控除額は以下の通りです。


年収 控除額 課税所得額
300万円 -108万円 192万円
500万円 -154万円 346万円
700万円 -195万円 505万円
1,000万円 -220万円 780万円


② 所得税と法人税の税率の差
個人事業主の所得税は累進課税なので、所得が増えれば増えるほど、税率も上がります。
しかし、法人税の税率は一定なので、所得が大きくなるほど会社にしたほうが節税になると言えます。

個人事業の場合
所得税率は最高で45%、住民税と事業税を合わせれば、最高で税率は50%を超えます。

それに対し法人の場合
法人税は最高で23.9%、地方法人税などを合わせても、税率は30%を超える程度が最高です。

個人の所得税と住民税は、所得695万円を超えると34%、所得900万円を超えると44%となります。
所得金額が700万円以上、900万円以上が、税率差上の法人との分岐点といえるでしょう。

③ 損金を最大9年間繰越できる
その年の所得がマイナスの場合、その金額を翌年以降の所得から控除することができます。
この繰越の最長期間が

個人:3年間

法人:9年間

となっています。
繰り越しても期間内に控除しきれなかった場合、残りは切り捨てになってしまうので、繰越期間は長いほど有利といえます。

④ 消費税の免税
個人事業であれ、法人であれ、創業から2年間は消費税が原則免税になります。
なので、個人事業で翌年から課税対象者になる場合に、その時点で法人成りすればさらに2年間の免税を受けることができます。

しかし、免税の例外として

・資本金が1,000万円以上
・設立1年目の半年間の売上等が1,000万円を超える場合

これらに当てはまる場合は免税の対象外となります。

⑤ 家族に給与を支払うことができる
法人化すれば、家族にも役員報酬または給料を支払うことができます。
これにより、家庭内での所得の分散が可能になります。

所得税は累進課税なので、分散して税率を下げることで節税することができます。
①でお話した給与所得控除を家族に適用することもできるので、所得の分散は非常に効果的といえます。

個人事業でも、税務署に届出をした場合、事業専従者として給与を支払うことはできます。
しかし、金額上限、事業就労実態、人数、同一生計、配偶者控除や扶養控除の適用など制限が多いので、法人化したほうが節税しやすいです。

⑥ 住まいを社宅として経費に
個人事業の場合、マンションなど自宅で仕事をしている割合に応じてしか家賃を経費にすることができません。
どんなに経費にしようとしても家賃の50%も経費にすることができないと思います。
もちろん、職場が自宅以外の場合は家賃は1円も経費になりません。

しかし、会社の場合は社宅という形をとることで家賃の全額を経費にすることができます。

会社が直接賃貸契約をして、その部屋を社長に貸すということにします。
こうすることで、家賃は全額会社の経費となり、会社は社長から家賃負担分をもらう、ということになります。
この時の家賃負担額は税法で決められたおり、20%弱~50%ほどとなっていますので、自己負担額をかなり抑えることができます。

⑦ 会社なら保険料も経費に
個人事業の場合、生命保険などの保険料は、最大でも12万円までしか、所得控除されません。

しかし、法人の場合、掛け捨ての保険であれば保険料の全額を費用として計上することができます。
積立の場合でも、保険料の半額は経費として計上できるので、大きな節税方法といえます。

ただし、解約時や満期時に保険金が入ってくる時は、利益として課税されることになります。

⑧ 食事代がちょっとだけ非課税に
普通、日々の食事代を経費にすることはできません。
事業に関係なく生活するうえで必要なお金だからです。

しかし、法人の場合は食事代の一部を経費にすることができます。
そのためには、以下の条件を満たす必要があります。

・食事の価額の50%以上を従業員(役員含む)が負担すること
・会社の負担額が、従業員につき月額3,500円(税抜)であること

この2つを満たす部分を経費にすることができます。
つまり、1ヶ月の昼食代が7,000円(税抜)までは、半額を経費にすることができるということです。
昼食代がそれ以上になる場合は、経費になるのは3,500円(税抜)で一定です。

節税としての効果は小さいですが、知っているとちょっとお得な節税方法となります。

⑨ 退職金を支給して節税
個人事業の場合、廃業して終わりですが、法人は、役員に対して退職金を支払うことができます。
この退職金は会社の経費になるので節税になります。

しかし、退職金の利点はそれだけではありません。

退職金は、所得税法上「退職所得」という所得になります。
この退職所得は給与所得などに比べて、税金の計算が非常に優位です。
退職所得と税額は以下の手順で求めます。


(1)「退職所得控除額の計算」

 

勤続年数(=A) 退職所得控除額
20年以下 40万円×A(80万円未満は80万円)
20年超 800万円+70万円×(A-20年)

※1年未満の端数は1年に繰り上げます。


(2)「課税退職所得額の計算」

退職手当の支給額から(1)で求めた退職所得控除額を控除した残額を1/2したものが課税退職所得額になります。

課税対象 =(退職金-控除額)×1/2


(3)「税額の計算」

(2)の課税退職所得金額に応じて、「所得税の税額表」の税額速算表に基づいて税額が計算されます。


例)「退職金3,000万円、勤続年数29年3ヶ月の場合」

(1) 800万円+70万円×(30-20)=1,500万円

(2) (3,000万円-1,500万円)×1/2=750万円

(3) 750万円×23%-636,000円=1,089,000円

となります。
退職金3,000万円に対して税額108万9千円なので、税率はわずか3.63%となります。

参考:国税庁ホ-ムペ-ジ
http://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/02_3.htm



税務以外での7つのメリット

⑩ 社会的信用度が上がる
法人成りして会社になると、商号、本店、目的、資本金、役員等が登記されるので、個人事業に比べて信用が上がります。
会社によっては法人相手にしか取引をしないといった会社も存在するので、事業規模を拡大する上でも大きなメリットといえるでしょう。

また、「株式会社○○ 代表取締役社長 ○○」という肩書が付くだけでも、名刺交換の際の印象がかなり変わってきます。

⑪ 資金調達がしやすくなる
会社になることで、個人の時と比べて、銀行などの金融機関から融資を受けやすくなります。
個人事業で融資を受けようとする場合、第三者保証人を要求されるなど審査が厳しくなります。
一方で、法人の場合は貸借対照表と損益計算書が作成されるので、金融機関も明確に返済能力などを審査することができ、広く資金調達の可能性が開かれています。

⑫ 人材採用の幅が広がる
法人化したほうが採用の面でも有利です。
働く側としては、個人のもとより正社員として働きたいという思いが強いです。
より優秀な人材を確保するためには法人化は必須といえるでしょう。

⑬ 決算日を自由に決めることができる
個人事業の場合、事業年度は1月~12月、確定申告は3月15日までと決まっています。
しかし、法人の場合は決算日を自由に決めることができるので、繁忙期に決算業務が重ならないようにすることができます。

⑭ 事業主と専従者も社会保険に加入することができる
個人事業の場合、事業主と専従者は社会保険に加入することができません。
しかし、法人の場合は加入が義務付けられています。
健康保険も厚生年金も、個人の時よりも保障が多くなるので、将来のことを考えるとメリットといえるでしょう。

⑮ 相続税がかからない
個人事業の場合、事業主が亡くなると全ての財産が相続の対象となり、最高で55%の相続税がかかります。
法人の場合、会社の所有資産には相続税がかかりません。
ただし、株式は相続税の対象となります。

⑯ 有限責任となる
会社を設立した場合、個人はその会社の株主となります。
仮に会社が倒産したとき、会社の保証人となっている場合を除き、借入金の返済などは株主の出資の範囲でのみ責任を負います。

個人事業で倒産した場合は、自腹を切ってでも返済しなくてはならないので、最悪自己破産ということもあり得ます。



 

  • 法人成りの6つのデメリット
次は逆に、個人から法人にする場合のデメリットについて見ていきます。


税務面での2つのデメリット

① 赤字でも払わなきゃいけない税金がある
個人の場合は、赤字であったら税金はかかりません。
しかし、法人の場合はたとえ赤字になったとしたも税金を払わなければいけません。
それが、法人住民税の均等割りです。

いわゆる、会社が存在することでのチャ-ジ料みたいなものです。
これが毎年最低でも7万円かかります。

② 税務調査のリスク
個人事業に比べると、法人のほうが税務調査が入る確率が高まります。
もちろん、会社の規模にもよりますが、あくまでも個人事業の時と比べた場合です。



税務以外の4つのデメリット

③ 設立にお金がかかる
そもそも会社設立を行うためには費用がかかります。
自分でやる場合と司法書士に頼む場合とで、約20万円~30万円のお金が必要です。

さらに、資本金も用意しなくてはなりません。
会社の信用も考えると、資本金は最低でも100万円、平均で300万円は用意しておきたいところです。

④ 社会保険に強制加入
メリットの部分でも出てきた社会保険ですが、会社にした場合は社会保険に強制加入です。
個人事業の時に支払っていた国民健康保険と国民年金に比べると金額が大きくなります。

さらに、従業員を雇った場合、社会保険料の半分を会社が負担するので、人を雇えば雇うほど負担は増えていきます。

⑤ 事務負担の増加
法人化によって事務作業の負担が増えます。
会計においてもしっかりと会社法に基づいて処理を行う必要がありますし、確定申告に比べて、決算もより複雑になります。
社会保険等の手続きも負担になってきます。

こういった理由から、ほとんどの法人は税理士に依頼することになります。
その場合、個人事業で依頼する時と比べて、若干手数料が高くなるのでデメリットといえるでしょう。

⑥ 辞める時もお金がかかる
法人は事業を辞めるにしても費用がかかります。
手続きは複雑で、ほとんどの場合司法書士に依頼しますが、総額で10万円ほど費用がかかります。




  • 法人成りシミュレ-ション
次は、同じ利益額で個人と法人でいくら払うお金が変わってくるのかシミュレ-ションしていきたいと思います。

はじめに言っておきます。
シミュレ-ションから個人と法人どっちがお得かというのは判断できません。
仮に売上や利益が同じでも、扶養家族の人数や資産状況など、人によって実際に手もとに残るお金は変わってくるからです。
ですので、あくまでも参考の1つとしてご覧ください。

※金額は「東京都在住、扶養家族無し」という仮定で計算した値です。

※法人は、利益を全て役員報酬として、会社としての利益は0円で計算しています。



1年間の所得(売上-経費)が500万円の場合

① かかる税金

個人 法人
所得税 34万円 所得税 14万円
住民税 39万円 住民税 24万円
事業税 10万円 事業税
法人住民税 法人住民税 7万円
合計 83万円 合計 45万円
※所得控除(保険料+基礎控除)を考慮したうえで計算しています。

まずは、税金の合計額です。
法人のほうが個人事業より、38万円安くなることが分かります。

② 保険料を払うと


個人 法人
国民健康 58万円 健康保険 28万円
国民年金 19万円 厚生年金 45万円
合計 77万円 合計 73万円
※法人の社会保険料は半額の自己負担分だけ表記しています。

保険料での差額は、法人のほうがわずかに4万円安いことが分かります。

しかし、法人の社会保険料は、会社負担分と個人負担分を合わせると、総額は2倍の146万円となります。
この場合、支払う保険料は法人のほうが69万円高くなります。



1年間の所得が1,000万円の場合

① かかる税金

個人 法人
所得税 134万円 所得税 82万円
住民税 85万円 住民税 63万円
事業税 35万円 事業税
法人住民税 法人住民税 7万円
合計 254万円 合計 152万円
※所得控除(保険料+基礎控除)を考慮したうえで計算しています。

所得が1,000万円になると、税金の差額はさらに顕著で、法人のほうが102万円安くなっています。

② 保険料を払うと


個人 法人
国民健康 93万円 健康保険 57万円
国民年金 19万円 厚生年金 68万円
合計 112万円 合計 125万円
※法人の社会保険料は半額の自己負担額だけ表記しています。

所得が1,000万円になると、保険料は法人のほうが13万円高くなります。
会社の負担分と総額は250万円となり、差額は138万円となります。




  • 法人成りを考慮するポイント
実際に法人成り行う際は、上記のメリット、デメリットと、事業の現状や展望などから複合的に判断しなければなりません。
そこで次は、実際に法人成りで考慮すべきポイントをご紹介します。



お金はどうしてもかかる

まず考慮するべきポイントはお金です。
法人成りのデメリットのほとんどは、お金がかかるということです。

実際に設立するだけでも、資本金と初期費用で数百万円ほど必要になります。
創業間もなく、なかなか費用を捻出することが難しい、ということもあると思います。
また、事業も安定していて、現状維持が当面の目標、といった場合も、法人成りせず個人のままのほうがいいでしょう。



将来的な不安に対して

法人成りのメリットのいくつかは、将来的なメリットです。
社会保険に加入することで、年金は国民年金から厚生年金に変わります。
支払う金額は高くなりますが、将来的に貰える金額は大きく違ってきます。

さらに、退職金を受け取ることができたり、相続面でも優遇されたりと、将来的な保障という面も法人成りを考慮するポイントになるでしょう。



会社にしてしまったほうが仕事がしやすい

法人成りをすると、個人事業の時に比べて社会的な信用が増します。
それによって、取引先の幅も広がります。
個人のままではできなかった取引も法人にすることで可能になります。

事業の業種によって、個人のままでは不都合がある場合などは法人成りを考慮してみましょう。



さらに高い目標を目指す!

実際にどんどん利益を上げていきたいと考えている場合は法人成りしたほうが有利です。
法人のほうが事業規模の拡大にも優れていますし、福利厚生によって人材確保もしやすくなります。
銀行からの借り入れといった資金調達の選択肢も増えます。

何より、事業規模が拡大し、取引金額が増えれば増えるほど、リスクも高まります。
法人は個人と違い有限責任となるので、リスクマネ-ジメントという面でも法人のほうが有利になります。

今後さらに利益を上げたい、年収を増やしたいと考えている場合は法人成りを考慮しましょう。




  • まとめ
今回は法人成りについて具体的にお話させていただきました。
基本的に、「個人事業から、利益に応じて法人へ」というスタンスでメリット等ご紹介しました。

しかし、当事務所のお客様の中には、個人事業として利益を上げている方もいらっしゃいますし、その逆に起業して最初から法人スタ-トという方もいらっしゃいます。
実際には、一般的なメリットデメリット以上に、一人一人の状況や考えのほうが大事になってきます。

法人成りを迷われてる方、もっと具体的なアドバイスやシミュレ-ションをご希望の方は、お気軽に当事務所までご相談ください。

カテゴリ:

< 税理士に相談する前に知っておきたい会社設立後の7つの手続き  |  一覧へ戻る  |  経営者なら知っておきたい決算書で見るべき10のポイント >

同じカテゴリの記事

このページのトップへ